入手したのは二十年以上前になるのだが、そのままずっと放置しておいた一冊があった。それは機械函入、岩上順一『歴史文学論』で、昭和十七年に中央公論社から刊行されている。 読まずにほうっておいたのは、そうしたそっけない装幀に加え、岩上を知らなかったこと、及び学術的なタイトルに、かつて読んだルカーチの『歴史小説論』(伊藤成彦、菊盛英夫訳、『ルカーチ著作集』3、白水社)を想起したことにもよっている。いずれあらためてルカーチも絡め、目を通すつもりでいたにもかかわらず、長き時が流れてしまったのである。しかし前回の新日本文学会の中央委員の一人として岩上の名前が見出されたことで、『歴史文学論』を探して繰ってみる…