大町桂月は酒を愛した。 酒こそ士魂を練り上げる唯一無二の霊薬であり、日本男児の必需品と確信して譲らなかった。 何処へ行くにも、彼は酒を携帯していた。その持ち運び方が一風変わって、通人らしくまた粋で、竹のステッキの節をくり抜き、スペースを確保、たっぷり酒を詰め込んで、旅行はおろかちょっとした散歩にもこれを伴い、欲するままに呑んだというからたまらない。ぞくぞくするほどいなせ(・・・)な姿であったろう。 (平福百穂『桂月先生』) 礼儀とは、ようするに、人に快感を与ふること也。少しも不快の感を与へざること也。然るに人を見ると、すぐに己の不幸を訴へ、いつもしかめっ面を為して、にこともせず。人の気をしてめ…