午睡から目醒めると雨が止んでいる。外を散歩するが、植木の葉っぱ、ポリバケツの蓋、車両のボンネットを濡らす水滴を除けば、通り雨の痕跡は見つからない。夕空にはピンク、灰色、濃紺色の三色の雲。 *** 南北をとおして、江戸の人々がなにを怖いと感じていたのか、どんな夢を夜みていたのか、心や体の感覚そのものに近づいてみたかった。役者にあてて書かれたことばは、肉声の痕跡で、それを勉強してゆくことによって、帳面をとおして、舞台をみていた匿名の人たちへのフィールドワークのようなことができるかもしれないとも思った。少しでも、もういない死者に近づきたい。 朝吹真理子(著)『だいちょうことばめぐり』河出書房新社,p…