面白い小説は冒頭の数ページで読者を引き込みます。ページをめくったとたんに「むむ!」っと思わせ、先を期待させる雰囲気をぷんぷん発してきます。 暖簾をくぐったら、目の前のざわめきや漂ってくる食い物の匂いで、「この店は当たりだ」と直感するのに似ているかな。そういうお店、めったに出合えないけれど。 「じんかん」(今村翔吾、講談社)は、読み始めてすぐ「当たり!」の予感がしました。戦国時代を代表するヒール(悪役)の大名・松永弾正を、だれより一途で人間的な男として描き、常識とされてきたイメージを覆します。 史実や通説をベースにしながらも、悪のイメージを善に転化する力技の無理を感じません。作家としてさすがの力…