堺筋の電車道を越えたとたん、もう道頓堀の明るさはあっという間に私の躯をさらって、私はぼうっとなってしまった。 弁天座、朝日座、角座……。そしてもう少し行くと、中座、浪花座と東より順に五座の、当時はゆっくりと仰ぎ見てたのしんだほど看板が見られたわけだった 『アド・バルーン』織田作之助 松竹座 ファザード 「芝居まち」道頓堀の時代もいまは昔、五座に芝居茶屋が立ち並んだ道筋も様変わりし、仰ぎ見て楽しむ芝居小屋の看板も、飲食店などの立体看板へと取って変わった。 その変わり果てた道頓堀で、最後まで芝居小屋の看板を上げ続けたのが松竹座だった。 私がはじめて松竹座の中へ足を踏み入れたのは2012年。中村又五…