秋草の花咲く道に別れしがとぼとぼと母は帰りゆくなり 岡野弘彦 夕まぐれ涙は垂るる桜井の駅のわかれを母がうたへば 岡野弘彦 長夜の闇にまぎれ入らんとする母を引戻し引戻しわれはぼろぼろ 山本かね子 生きものを飼はなくなりて内外(うちそと)の清(す)みゆく家に母は火を継ぐ 柏崎驍二 いく日会わねばいく日を言いて白桃のつゆのしとどを母と分つも 新免君子 われを捨てて母の去りたる夜の汽車が今も雪夜を走りて止まぬ 鈴木鶴江 うすら陽は母が常臥せし跡しるき畳を照らし我を照らせり 山中登久子 掌に載せて慈姑(くわゐ)のいろをこよなしといひたる母は死期近かりき 浅野まり子*慈姑: 中国南部が原産地という。日本へ…