この橋上の激戦を眺めていた平家の本陣は、 次第に焦立ってきた。 死物狂いで防戦する頼政一党を破って、 橋から宮のいる陣へ突入するには時間がかかる上に、 第一狭すぎる。 敵が宇治橋の防戦に全力をあげている虚をついて、 一気に宮の本陣に全兵力を投入して討ち果したい、 それには川を渡らねばならぬが川の深さははかり知れぬ。 平家の侍大将上総守忠清は、 大将軍知盛の前にあらわれると指揮を仰いだ。 「ご覧のごとき橋上の激戦、 今はこの川を渡る以外に手段はございませんが、 五月雨《さみだれ》で増水しているところへ 無理をして渡河強行いたしますならば、 人も馬も多く失われるは必定、 淀、一口《いもあらい》へま…