林檎<2> -啄木の歌に登場する花や木についての資料- 林檎 石狩の都の外の 君が家 林檎の花の散りてやあらむ 札幌の大きな林檎園の娘で弥生小学校の同僚教員であった橘智恵子に捧げた「忘れがたき人々 二」から。小奴の場合とちがって、こちらのほうは官能よりは心情を主とした青春の抒情歌である。もう一首、世の中の明るさのみを吸ふごとき/黒き瞳の/今も目にあり 啄木はこの女性に対しては思慕を寄せるだけに終ったので、「二」の歌にはその清らさと、また弱さがある。 北海道流離の歌の中のとりわけ忘れがたい二人、小奴とこの橘智恵子が、職業も育ちも、また啄木の心のありようも対蹠的であるのは、興ふかい。 (上田三四二…