ペンギンドクターより その3 恩寵の時間―その28 人が生きていくのに、最も必要なものは、日常生活の規則性だと、私は思う。 朝、目覚めたら起きて顔を洗う。歯を磨く。新聞を読む。犬を連れて散歩に出る。朝食の支度をする。それは、人によって様々であろう。 私の場合、5時に起床、犬の頭をなでて、鎖をはずし、庭に放す。狭いうえに、庭木が無秩序に植わっているので、犬は垣根と家との狭い通路を走り回るだけだ。しかし、それを眺めている私は「朝」を実感する。新聞を郵便受けから取り出し、玄関のドアを開けて、家の中に入る。こうして一日が始まる。 府中刑務所の独房にいた時は、寒さで目覚めることが多かった。朝のラジオ体操…