<モロイ>朗読に際して 関根俊和 #1 朗読の経緯 ベケット小説三部作の一作目<モロイ>は、世界的に有名な戯曲<ゴドーを待ちながら>の執筆前に書かれたものらしい。その経緯からして<ゴドー>を知る者なら、<モロイ>の中に、<ゴドー>のイメージの原型を数多く見つけることができるだろう。例えば、自殺についての考察は、エストラゴンの首吊りの失敗。息子を鎖で自分に結びつけて逃げ出さないようにするモランの夢想は、ポッツォとラッキーの姿に酷似している。もっとも、<ゴドー>の、ある意味では、謎めいたセリフに対して、<モロイ>の文体は、あくまでも明晰であり、小説的な、あるいは文飾的な矛盾や虚偽を、一切許さない強…