お二人とも、紳士的な批評家であられた。表面的には。 慶應義塾の池田彌三郎教授が、こんなふうにおっしゃったことがある。自分は生涯折口信夫の鞄持ちだった。そんな自分になにかオリジナルはあるかと問われても、あるはずがない。巨大な師が残した仕事をまとめるだけで、ちっぽけな自分の生涯など了ってしまう。かつて師の門下にあって、やがて一本立ちの仕事を残した人は、師の栄養を吸うだけ吸って、独立していった人たちだ。席にちょいと斜めに腰掛けて、旅発っていったのだ。たとえば山本健吉先輩のように、またたとえば村上一郎君のように、と。 武道か茶道から出た言葉らしいが、「守破離」ということだろう。師の教えを厳格に守る、や…