群集心理は恐ろしい。 小作争議が激化して紛糾に紛糾を重ねると、「多数派」かつ「攻め手」たる小作側から急速に良心とか節度とか、分別とか見境とか、世間普通の水準で「正気」に属するあらゆるモノが消えてゆく。 我が意を通し勝利に至る為ならば、どんな非道も厭わない。闇討ち、放火もなんのその。地主当人のみならず、彼の親類知己縁者、掌中の珠と可愛がる童子童女に対しても、威脅圧迫は及ぶのだ。 「或地方では消防組を組織しても小作人の方で其指揮権を握り、地主の子弟にはなるべく危険な役目を仰付けるやうにして居る所もあれば、又小学校の児童の間にも地主の子女と小作人の子女とが相分れ、遊戯を共にすることなきは勿論、小作人…