津村節子(1928 - )『紅梅』(文藝春秋、2011) 作者みずから、わが集大成と称ぶ作品。夫の吉村昭(1927 - 2006)が体調の異変を口にしてから他界するまでの一年半を描いた、看病・介護記だ。 帯広告には、構想執筆に五年の歳月とあるから、夫の最期を看取った直後から、これを書き残さねばと思い立たれたのだったろう。凄絶な闘病随伴の記でありながら、夫と作者自身との全生涯を視野に収めた、二代記となっている。 小説だから登場人物はすべて仮名にされてある。が、これは丹羽文雄、大河内昭爾、瀬戸内寂聴、三浦朱門・曽野綾子夫妻と、想像がつくように描かれてある。医科大学やクリニックもさようだ。 半世紀以…