大川小に赴任するまえ、彼は北東に10キロほど離れた相川という漁村で教鞭を執っていた。相川小学校での彼の仕事のひとつに、災害準備があった。多くの教師はこれを日常業務の一環として扱い、避難訓練の実施と保護者の電話番号リストの更新だけで済ませた。ところが、遠藤教諭はさらにもう一歩踏み込んだ。相川小の既存の緊急マニュアルには、津波警報が発令された際、児童と職員は三階建ての校舎の屋上に避難するべきだと書いてあった。遠藤教諭はそれを不充分だと判断し、学校の裏山の急な斜面を登って神社に避難するべきだとマニュアルを書き換えたのだった。(リチャード・ロイド・パリ―『津波の霊たち』ハヤカワ文庫、2021) こんば…