持ちのミウーソフ家で女中を勤めていたころ、モスクワから招聘された踊りの師匠に教えられて、同家の家庭劇場で踊ったようなものであった。グリゴーリイは妻の踊りを黙って見ていたが、一時間後、自分の家へ帰って、少々髪を引っ張って彼女を懲らしめた。しかし、手荒な折檻はそれきりで終って、もうその後一度も繰り返されなかった。マルファもそれからふっつり踊りを断念してしまった。 この夫婦には子供が授からなかった。もっとも、一人赤ん坊ができたが、それもすぐ死んでしまった。グリゴーリイは見うけたところ子供が好きらしかったし、またそれを隠そうともしなかった。つまり、それをおもてに見せるのを恥しがる様子がなかったのである…
間てやつは自分の痛いことばかり話したがるものだよ。いいかい、今度こそ本当に用談に取りかかるぜ。」[#3字下げ]第四 熱烈なる心の懺悔―思い出[#「第四 熱烈なる心の懺悔―思い出」は中見出し]「おれはあっちにいる頃、ずいぶん放埒をつくしたものだ。さっき親父がおれのことを、良家の令嬢を誘惑するために、一時に何千という金をつかったと言ったが、あれは豚の空想で、決してそんなことはありゃしない。よしあったとしても、『あのこと』のために金がいったわけじゃないよ。金はおれにとってただの付属品だ、心の熱だ、装飾品だ、それで、きょう立派な婦人がおれの恋人になってるかと思うと、明日はもう辻君がその代りになっている…