口笛を吹きながら、ドイツの詩人キュウゲルンゲンが人通りのと絶(だ)えた夜更(よふけ)の街を歩いているところへ、ばさりと美しい少女が天から降ってきた。 なんとなく有名なアニメ映画を思い出してしまうこの小説は、川端康成「海の火祭」の一部「香の樹」の冒頭部分です。 川端康成は生涯にわたり「心霊」というモチーフを追い求めた作家でした。 川端と心霊とのかかわりを考えるうえで誰しもが指摘するのは、十九世紀後半から二十世紀初頭にかけて世界的に大流行した「心霊学」の影響です。 昭和2年(1927)に「中外商業新報(現在の日本経済新聞)」に連載された「海の火祭(香の樹)」に、古今東西の亡霊や葬いについての記述が…