キリストの石:九鬼紫郎 1960年(昭35)日本週報社刊。 1963年(昭38)新流社刊。「女と検事」に改題。 タイトルは新約聖書の話から来ている。罪を冒した女を石打ちの刑にしようとする所で、キリストが、自身に罪を持たない人間だけがそれを行なえるのだと諭したという。 この小説においては、人を裁く検事の立場でありながら、自身に道義的な罪を抱えずにそれが行なえるのかと自問する場面が出てくる。しかし内容的には富豪の不審死をめぐるミステリーで、気軽に楽しめた。誰もが脛に傷を持っており、特にその傷が自分の担当する訴訟案件に関連した場合には、自分の地位や将来を危うくする覚悟にまで追い込まれるのはうなづける…