第四回:志乃の処方箋 志乃が手に取ったのは、ガラス製の細い攪拌棒だった。書き換えられ、黒いインクで汚れた処方箋。その処方箋を見つめながら、既に彼女の感覚は完全に指先へと転移していた。 動きには一切の淀みがない。ライブラリーの中から、重厚な遮光瓶を一本手に取ると、デジタルスケールの上に置かれた空のビーカーへ一気に滴下を始めた。液体が底を叩く音が、静寂の中に響く。 「……ほう。ベースをそれほどまでに厚く敷くか」 Dがカウンターに身を乗り出し、喉を鳴らす。 「もはや香りの設計じゃない。重力の設計だ。真壁、お前の意識を地面に縫い付けるためのな。逃げ出そうとしても、その足元は泥濘(ぬかるみ)のように…