1952年、東京に生まれる。蓮實重彦、ロラン・バルトらの影響を強く受けた、いわゆる「テクスト論」系の文芸批評家としてデビューする。現在は近畿大学文芸学部教授。かつては筒井康隆を好意的に評していたが、筒井康隆の『虚航船団』への評価をきっかけに犬猿の仲となる。 誤表記としては渡部直巳、渡部直已がある。
体罰の話、ってか体罰って単語聞くと脊髄反射で渡部直己のこと思い出す。ベテランの文芸評論家で、俺が大学生のとき教授やってたヒトで、よくそのヒトの講義を聞いてた。話がうまくてどの授業もおもしろかった。 そのヒトは「体罰としての朗読」ってことを言ってて、昔教えてた大学とか専門学校で、小説とか評論の実作、みたいな授業であんまりひどいモノを書いてきた学生には授業中にみんなの前でその文章を音読させてた、いかにくそみたいなモノを自分が書いたのか思い知れ! 的な意味でやらせてた、とか言ってて、確かにキツイなぁ、俺だったらもう二度とその授業出られねーなぁ、とか思って、いやなかなかのもんだなぁと。この大学に来てか…
岡田利規の小説の特徴として*1、一人称視点を採用していながら、語り手が知り得ないはずの情報までエクスキューズなしに語る、ということがある。 十分以上、誰も来ない時間があったあとで、小さな男の子をつれた女性が入ってきました。男の子が背伸びをして、パンをつかむためのトングを、それが何本も細い金属のハンガーに並んで引っ掛けられているところからひとつ取ろうとして、摑むなり、床に落としました。レジでおばあさんに歳を尋ねられて、男の子は右手の指を四本にしました。それを見て、おいおいまだ三歳だろう、と女性が言いました。でも、男の子は、小指を親指で引っ掛けるのに失敗してしまっただけなのでした。 自分が三歳なの…
1年ほど前の五嶋みどりの新聞記事を見つけてブログに記したばかりだけど、気になる記事は保存しておいて後で読み返したり・ブログに紹介したりしていている。他にもたまっている中に今年の東京新聞2月24日が短い記事を載せていて、 「早大と渡部氏の賠償増額 元院生へのセクハラ高裁判決」という見出し。 1年ほど前に文芸評論家として知られる渡部直己さんが博士課程の院生をレイプして逮捕されたとか聞いて「ワセダはまたやったか!」と呆れた覚えがある。去年の末頃だったかは被害女性が一方的に追及するのではなく、渡部氏の側からの反論にも支持が得られているとも聞いて不可解な思いだった。記事によればレイプなどではなく、渡部氏…
懐かしの藤子不二雄(当時の名義。A先生単独作品とのこと)アニメ、『怪物くん』(一九八〇~一九八二)の主題歌がふと脳内で流れました。ドラキュラ、オオカミ男、フランケンを従えた怪物くんが、良い怪物とコントを演じたり、悪い怪物を退治したりする物語です。そこで考えたのですが。 愉快で痛快な物語というのは、往々にして、笑われたり退治されたりする「怪物」的存在を必要とするのではないでしょうか。 ドイル『四つの署名』の脇役は言いました。 ※ 「まるで小説を読むようでございますわ」フォレスタ夫人は溜息(ためいき)をついた。「美人の受難、五十万ポンドの宝物、食人の蛮人、木の義足をつけた悪者、―竜(ドラゴン)や騎…
原告の深沢レナ氏(左)、会見に同席した内藤忍氏(右) 2月22日、早稲田大学の元大学院生の女性が、当時の指導教授からハラスメントを受けたとして教授と大学に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が出された。 損害賠償は一審から増額 原告は詩人の深沢レナ氏。被告の早大教授(当時)は、文芸評論家としても有名な渡部直己氏。 2019年、深沢氏は渡部氏に性的な発言をされたり身体を触られたりするなどのセクハラやアカデミックハラスメントを受け退学を余儀なくされたとして、渡部氏に550万円の損害賠償を請求する訴訟を提起した。 また、ハラスメントについて別の教授に相談したところ事件の隠ぺいや渡部氏の擁護が優先され、ハ…
早稲田大学と元教授に賠償を命じた判決後、記者会見した原告の深沢レナさん=東京・霞が関で2024年2月22日午後5時51分、斎藤文太郎撮影 早稲田大学大学院の教授だった文芸評論家の渡部直己氏から在学中にセクハラを受けたとして、元大学院生の女性(33)が渡部氏と早大に計660万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁(増田稔裁判長)は22日、渡部氏と早大に計99万円の支払いを命じた。 2023年4月の1審・東京地裁判決から賠償額を約40万円増額した。 1審判決が違法性を否定した、食べかけの食事を渡部氏が自分の箸で女性とシェアした行為について、2審判決は、立場の弱い女性が食事に乗り気でなかっ…
どうも考えが堂々巡りに陥ったので、書きながら考えていくことにします。 前回の趣旨は、もし文学・芸術が他者を描き演じることを否定してしまったら(そこまで極端な論者はいないかも知れませんが、劇中のLGBTは当事者が演じるべきだという論者はすでにいます)、過去の芸術が積み上げてきた描写・演技の伝統はすべて否定され、あとには私小説・日記漫画・自画像・自撮り動画といったものしか残らなくなるのではないか、というものでした。 確かに、描写し演技することには、暴力性が内在しています。他人が描いた自分の似顔絵や、他人がやる自分の物真似を見て、不快感を感じるのはよくあることです。 「文学や芸術が何だというんだ。人…
◆2024年◆ ・年鑑 ・「図書」 ・文芸時評 ・ゲンロン ・近代出版研究 ・[連載]大澤聡「文芸時評《3月》――本という人生 「ある」と「ない」のあいだで」(『毎日新聞』、毎日新聞社、夕刊文化面、2024年3月27日) ・[連載]大澤聡「見聞録 メディア[3月]――技術革新と書き言葉 声を文字へと変換する世界」(共同通信、2024年3月27日配信)*全国各紙に順次掲載 ・[論文]Satoshi OSAWA. "Miki Kiyoshi as Editor: The Landscaping of Japanese Philosophy." Miki Kiyoshi and the Crisis…
書き下ろしです。 某ソウルフラワー監督のオススメで、小野峻志監督作『野球どアホウ未亡人』(2023)を観る。 愛する夫を草野球練習中の事故で亡くした夏子は、夫の野球の師匠たる重野進に見込まれ、野球選手としての特訓を受けることになる。野球など気が進まぬどころか大嫌いだったのだが、夫の借金のため仕方なかったのだ。だがやがて、苦難を通じて野球に目覚めることに-それどころか苦難そのものに-悦びを覚えるようになってしまう。そんな折、夏子に知らされる驚天動地の真相。夫は事故ではなく、重野の手によって殺されたのだった。 …というストーリーは、『鉄腕未亡人』(1942)『セックス・チェック 第二の未亡人』(6…
◆執筆一覧【2017年】 ・[連載]大澤聡「アーカイブ[64]――ブツとしてあること」(『出版ニュース』、出版ニュース社、17頁、2017年12月下旬号) ・[連載]大澤聡「ネット社会時評[12月]――一企業が判断する「善」 医療情報の検索結果」(共同通信、2017年12月20日配信) *全国各紙に順次掲載 ・[コラム]大澤聡「設計と偶発が紙面にむすぶ再帰的な雑多性――『レム・コールハースは何を変えたのか』」(伊藤公文編『百書百冊――鹿島出版会の本と雑誌』、鹿島出版会、235-236頁、2017年12月25日) ・[回答]大澤聡「2017年下半期読書アンケート」(『図書新聞』、図書新聞、第33…
見解の統一とマルクス主義 〜土台の上に文化はのってる? 作品の統一的見解と強制 マルクス主義と上部構造 文化的価値観とフィクション 世の中に役立つための表現 参考となる本 【必読書150】 【マルクス『ドイツ・イデオロギー』】 【大塚久雄『社会科学における人間』『社会科学の方法』】 【フランクリン自伝】 見解の統一とマルクス主義 〜土台の上に文化はのってる? 作品の統一的見解と強制 作品の統一的見解がなぜ可能なのか。 簡単に言えばそう強制されればいいのでした。 学校で行われる国語の授業などではそうですね。例題となる文章を前にして、作者がこの時どう思ったか答えなさい、こんな感じですね。なんでもど…
あなたは今、この文章を読んでいる。:パラフィクションの誕生作者:佐々木 敦慶應義塾大学出版会Amazon わたしは今、この文章を書いている。 この文章を書いている今の自分の状況を、言葉で表すなら、そうなる。 でも、書き終わった瞬間にその文章は過去になり、「今」ではなくなる。何度か推敲したりもしているし。 そもそも「自分が文章を書いている」という記述自体が完全な事実ではなく、ひとつの見方でしかない。現代の、日本語による、一般的な表現でしかない。 脳がわたしに文章を書かせている。 と、受動態で表現したほうが、別の見方に依るならば、より正確なのかもしれない。 もしくは「書け、と何かが囁いている」とか…
私がいまだに「趣味は読書」という言葉に違和感しかもてない、その状態というのをすこしは、垣間見ていただけたのか、とも思うが、結句それはお他人からの納得も、もちろん共感や同情も求めていない、どころか納得されることにも共感されることにもすぐと反発を仕掛ける性質の、違和感なのだと思う。私は世間一般の人びとの言う「読書」なるものにおよそ軽侮の念しか抱かぬ。電車のなかで本を読んでいる人のことをみても、それを下らぬ本なのだろうとしか思えぬ。てんから私はひとのことを莫迦にしきって見下している。社交の場における私のことではなく直情の私のことをいえばおそらくそうなるのだろうと思う。スノッブは人に優しくせねばならぬ…
「知」的放蕩論序説 作者:蓮實 重彦,渡部 直己,菅谷 憲興,スガ 秀実,守中 高明,城殿 智行 河出書房新社 Amazon 東大総長をやめた蓮實重彦がスガ秀実、渡部直己ら最良の聞き手を前に大学、思想、映画などの現在と未来を縦横に語った痛快無比・話題騒然の「読書人」連続インタビューを一冊に集成。 1 大学をめぐって2 文学と映画をめぐって3 思想と歴史をめぐって
音楽好きとしては、ジャニーズ事務所を巡る、松尾潔と山下達郎の問題については結構注目しています。 松尾潔が、どうして一時期は自身もプロデュースに携わったジャニーズの件を執拗に言及し続けれるかといえば、おそらくはかつてアメリカのソウルミュージックを専門とした音楽ライターだった経歴も関係し、「ME TOO」等、アメリカの芸能界を揺るがせた、立場を利用した性加害問題についてかなり敏感だからではないかと思うのです。ソウルミュージックは黒人を中心とした音楽ジャンルで、その歴史を辿れば、それほど時代を遡らなくてもそこかしこに人種差別の苦しみや、それとの戦い―つまり弱者の歴史が垣間見える。 そして日本でも同じ…
読書の記録140 ◎「新・それでも作家になりたい人のためのブックガイド」 絓秀実、渡部直己著 (太田出版) 読みました。 気になったところ 目次 第1講義 第2講義①タイトル ②書き出し ③主人公の設定 ④脇役の瀬 ⑤語り手の設定 ⑥文体・語り口 ⑦対象描写 ⑧内面描写 ⑨会話 ⑩細部 ⑪結びコラム どこまで役に立つ!? 小説入門書ミシュラン 第3講義 第4講義 かなり本の紹介が多くてためになります。各コーナーで本紹介をまじえ説明と 必読書100選で100冊に加えコラム どこまで役に立つ!? 小説入門書ミシュランでも紹介・高橋源一郎著 『一億三千万人のための小説教室』 (岩波新書)・河野多恵子…