狭衣の中将は、源氏の宮に恋心を打ち明けて以来、心晴れることもなく、忍び歩きでもすれば立ち直ることもあろうかと、いろいろ気をまぎらわせようとしてはみるものの、やはりあの、源氏の宮の手をとらえた感触が忘れられそうにない。 ある日、宮中へ出仕したおり、東宮のもとへ出向いてお話し相手をしたとき、東宮が狭衣に尋ねた。「あなたをめったに宮中で見かけないが、もう少し姿を見せてくれてもいいんだがねえ。あなたは始終、家の中で源氏の宮と会っている。たまには私にだって様子を聞かせてくれても、バチは当たるまいに」「は。ここのところの暑さで少々まいっておりまして、ついつい出仕も怠りがちになったこと、申し訳ありません」「…