かの、伊予の家の小君、参る折あれど、 ことにありしやうなる言伝てもしたまはねば、 憂しと思し果てにけるを、いとほしと思ふに、 かくわづらひたまふを聞きて、 さすがにうち嘆きけり。 遠く下りなどするを、さすがに心細ければ、 思し忘れぬるかと、試みに、 「承り、悩むを、言に出でては、えこそ、 問はぬをもなどかと問はでほどふるに いかばかりかは思ひ乱るる 『益田』はまことになむ」 と聞こえたり。 めづらしきに、これもあはれ忘れたまはず。 「生けるかひなきや、誰が言はましことにか。 空蝉の世は憂きものと知りにしを また言の葉にかかる命よ はかなしや」 と、御手もうちわななかるるに、 乱れ書きたまへる、…