田中光二『オリンポスの黄昏』を読む。 田中光二は田中英光の次男で、彼自身有名なSF作家である。 その田中光二が、生涯でただ一つの私小説と銘打って一九九一年、著者五〇歳のときに書いたのが、この小説である。単行本には、「あとがきにかえて 父・田中英光との和解」という文章も収録されている。 生前ほとんどまともに父親と接したことのない著者は、父親としての田中英光というよりも、一人の作家としての田中英光の人生の歩みを、祖父の代から冷静な筆致で描写している。希死念慮に襲われ、沖縄の離島(波照見島)に一人旅する著者が、父と同じ年に生まれ、英光が自殺した昭和二四年一一月三日に自殺を試みたことがあるという老人と…