芝居との出逢いは、劇団「雲」公演、福田恆存脚色によるドストエフスキー『罪と罰』だった。それ以前に、親に連れられて水谷八重子(先代)と大矢市次郎の『婦系図』を観たというような体験は、別としてである。 丸の内ピカデリーで映画を観た帰りだった。国鉄有楽町駅のホームに立って、山手線の到着を待っていた。高校一年の秋である。池袋へ帰るだけなら、地下鉄丸ノ内線が早道だが、山手線日暮里駅までの通学定期券を所持していた。安上りなばかりか、ともすると有楽町から最短区間の切符を買って、キセル乗車を企てていたのだったかもしれない。 ホームに立った眼の前には、そごう百貨店がそびえていて、屋上から二階部分へかけて、「罪と…