疥癬はヒトヒゼンダニというダニが皮膚に寄生することによっておこる痒みを伴う皮膚病である。
「ダニがつく」というイメージからダニが刺して痒くなる、と誤解している人が多いが、ヒゼンダニは人を刺して吸血するわけではない。痒くなるのはダニの体などに対するアレルギー反応が起こるためである。ダニが付いてから痒くなるまで約1ヶ月の潜伏期があり、ヒゼンダニが付いたらすぐ痒くなるわけではない。
疥癬はヒトからヒトにうつる感染症だが、感染力は弱く、疥癬に罹った人と一晩一緒に寝る、長時間手をつなぐなど、かなり濃厚な接触がないとうつらない。
老人ホームや病院で集団感染が起こって問題になることがあるが、一般の健康人の間で集団感染が起こることはあり得ない。疥癬の集団感染は爆発的にダニの数が増える「角化型疥癬」という特殊なタイプの疥癬患者を発端にしておこる。角化型疥癬は免疫が極端に落ちた人しか罹らない稀な病型であり、普通の疥癬と違って、感染力が強い(角化型でも寄生しているのはヒゼンダニで、普通の疥癬との違いは寄生数だけである)。
疥癬の感染力の弱い理由は次の通りである。床や畳の上で暮らしているハウスダストなどとは違い、ヒトヒゼンダニは一生をヒトの皮膚の上で過ごすダニであり、ヒトから落ちると短時間に死んでしまう。その上、角化型以外の普通の疥癬患者に寄生するダニの数は少数である。だから疥癬は感染力が弱いのだ。
ネット上の情報を見て「自分は疥癬ではないか」と不安に駆られる人もいるようだが、素人判断での決めつけは禁物である。痒みを伴う皮膚病は疥癬以外にもたくさんあるし(たとえば夜間強くなる痒みが疥癬の特徴などと書いてあるサイトがあるが、これは痒みを伴う皮膚病に共通する特徴で、疥癬特有ではない)、疥癬は多彩な皮膚所見を呈することがあり、さらに普通の疥癬では診断の決め手になるダニの数が少なく検出しにくいので、皮膚科医でも診断をつけるのは難しいことがある。
疥癬を疑ったらまず皮膚科医に診てもらうこと。治療は医師の指示で人体に使用できる殺ダニ効果のある薬剤を使用する。「ムトーハップ(薬局で買える)が効く」という情報もあるが、疥癬に対しては治療効果が低くお勧めできない。まずは皮膚科医に相談して、効果が高く、短期間で確実に効く薬を出してもらった方が痒みに悩まされる期間が短縮するだろう。