まえがき 「眠らない街」「東洋一の歓楽街」と呼ばれた歌舞伎町は、時代の波に呑まれ、何の変哲もないただの歓楽街へと成り下がったという――。 ネタを求めて歌舞伎町を飲み歩けば、「今の歌舞伎町はつまらない街になった」と古参の住人たちは私を落胆させた。 しかし、それは本当なのだろうか。 私がはじめて歌舞伎町を訪れたのは二〇一一年のことだった。歌舞伎町の魅力というものが、「危うさ、怪しさ」という言葉に集約されるのであれば、すでに毒が抜けきった時期である。ヤクザの集団が通りを闊歩することもなければ、売春の温床となっていた中国人クラブもない。集団密航による不法入国者が街にあふれることもない。 当然、治安の改…