池袋西口のカラオケルーム、男は「黒く塗りつぶせ」を予約していた。曲が始まる。イントロのビートが、音の割れたスピーカーから流れる。男は矢沢永吉の歌い方を意識し、しゃがれ気味でシャウトをしながら歌う。曲が終わり、すぐさま次の曲が始まる「時間よ止まれ」。ところが、まったく声が出ない。疲弊した声帯の震えで生じた雑音のみが響いた。言うまでもなく、声がつぶれたのである。あの歌い方は、常人がなせる業には程遠かった。仕方なく男はカラオケルームを後にし、急ぎ足で新国立競技場へと向った。これは矢沢永吉の50周年ライブ〈EIKICHI YAZAWA 50th ANNIVERSARY TOUR「MY WAY」〉2日目…