割烹料理屋でバイトしていたことがある。完全予約制で6人がけのカウンター席しかない小さな店だった。薄暗い客席から見る調理場は眩いくらいで、切ったり、焼いたり、盛りつけたりするところを隈なく眺めることができた。目の前で料理を作り、食材やおいしい食べ方を解説するというスタイルで、客足が途絶える日はなかった。 うさぎの仕事は給仕と皿洗い、客の見送りと閉店後の掃除だった。料理に触れる機会はまったくない。 割烹料理なのに、店長のことはマスターと呼んでいた。自分のスタイルを貫く人で、口は厳しいが仕事への真摯な姿勢を尊敬していた。 そんなマスターから料理や仕事のことを教えてもらったが、中でもおいしい米のとぎ方…