「破船」(吉村昭、新潮文庫)は、感情を排した描写に徹し、淡々と言葉を紡いで恐ろしい寓話世界へ案内してくれます。 背後に山々が迫り、目の前は岩礁に白く波が砕ける僻地。へばりつくようにして人々が生きる小さな村があります。舞台は江戸時代、小舟を出しての漁労、海が荒れれば山に入ってキノコや薪を求める貧しい生活です。 四季折々の営みや、死者の葬送が語られます。しばしば働き盛りの男や娘が、銀と引き換えに期限付きで自らの労働力を売り、何年も村を出る。そうしてようやく、一家は生き抜くことができるのでした。 ふと、姥捨伝説を小説にした「楢山節考」(深沢七郎)を思い出しました。「楢山節考」は山村ですが、こちらは海…