『全体如何どうした事だろう。』イスカリオテのユダは手を拱こまねいて考えたが薩張さっぱり見当がつかない。三年の間自分は総ての会計を託せらるる程信用の厚さに係らず、先生が深い工たくらみを秘して語られないという理由が無い。 先生が都入みやこいりの時は、亡国の民が新しき皇帝を得たる如く狂喜して歓迎したでは無いか。人叫ばずんば石叫ぶという不穏な形勢は、もう今にも猶太ユダヤの天地が引っくり返りそうであった。 併しかし其後というものは、戦争の準備をするじゃ無し、毎日エルサレムの宮殿で説教をなさるばかり、いや待て待て、彼の論鋒の鋭どさと来たら学士も粉微塵に説破せらるる痛快じゃないか。既に皇帝の権威あり恢復の智…