第八回衆議院議員総選挙の中で生まれた小話(こばなし)だ。 時は明治三十六年、有権者への戸別訪問を禁じる法は未だ存在していない。 ごく当然のなりゆきとして、候補に立った誰も彼もがそれ(・・)を戦略に取り入れた。直接国税十円以上、満二十五歳以上の男子に対してのみ選挙権が附与されていたかの時代。やろうと思えば選挙区内の全有権者を訪問するのも不可能ではなかっただろう。一度きりに止まらず、二度三度と繰り返し行うことすら、おそらくは。 なんとも熱心で結構なことだが、有権者の身に立ってみればどうだろう。それも政治に関心の薄い、現代式のノンポリ的な有権者にしてみれば――。 毎日毎日、けたたましく鳴る呼び鈴に、…