――福間良明『司馬遼太郎の時代』(中公新書2022)を読む―― 司馬遼太郎が没してはや30年近く経つ。国民作家と呼ばれて今なお人気は衰えない。司馬文学がどのようにして生まれ、なぜ国民作家と言われるほどになったのか。その誕生と受容のあり方、そして行く末と教訓まで、時代との関わりで徹底的に追究する。私もまた司馬の歴史小説やエッセイ、特に『街道を行く』を愛読した。その魅力がどこから来ているのか。本書によって教えられ納得することが多くあった。 司馬遼太郎(福田定一・1923―1996年)は、大阪市浪速区に誕生した。実家は薬局を営んだ。大阪の下町で自営業を営んだ生育環境は、「既成組織に依拠せずとも何とか…