空蝉(うつせみ) 「巻名」 『空蝉』とは、蝉、あるいはその抜け殻を意味いたします。この巻の名は、以下の贈答歌に由来しております。 『空蝉の身をかへてける木のもとになほ人がらのなつかしきかな』(光源氏) 『空蝉の羽におく露の木がくれてしのびしのびにぬるる袖かな』(空蝉) 本文 寝られ給はぬままには、「われはかく人に憎まれても慣らわぬを、こよひなむ、始めて憂しと世を思ひ 知りぬれば、恥づかしうて、ながらふまじうこそ思ひなりぬれ」など宣へば、涙をさへこぼして臥したり。 いとらうたしと思す。手さぐりの細く小さきほど、髪のいと長からざりしけはひのさま、かよひたるも、 思ひなしにや、あはれなり。あながちに…