1901年(明34)青木嵩山堂刊。小栗風葉はかなりの多作家であった。晩年は代作者や翻案も多かったようだが、物語の構成に工夫をこらした、読んで親しみやすい作風だと思う。この作品は彼の20代半ばのもので、当時言文一致体はまだ完全には定着しておらず、地の文は文語体の美文調になっている。最初は読みづらいが、我慢して読み続けるうちに慣れてくる。会話部分はそのままの口語体なので落語や講談と同じように読める。主人公は夜の上野公園で見知らぬ美女から「悪い男に追いかけられているから助けて」と声をかけられて事件に引きずりこまれるが、彼はたまたま刑事であり、美女に興味を引かれつつ、その奇妙な行動の連続に戸惑いながら…