老歌人の為定から 「……お供も召されずお一人でか」と、 いぶかられたのもむりはない。 いつもの右馬介さえ今日は連れていなかったのだ。 都は知らず東国では源氏の名流、 武門の雄と見なされている足利氏の曹司《ぞうし》である。 ゆらい遠国者の上洛ほど 派手をかざって来るものといわれているのに、 飄《ひょう》として、一人で門を叩くなどはおかしい。 先で偽者と過《あやま》られなかったのも、 思うに、彼にはこんな場合もあろうかと、 とくに心をつかってくれたらしい母の添文《そえぶみ》のお蔭だった。 彼にもそれが分っていよう。 やがて為定の門を辞して、あてどなく町を行くうち、 ふと、石の地蔵尊を路傍に見かける…