春の夜(よ)におぼろに浮かぶ三日月のようだ、美保の港は。 大国主命が少彦名命と出会った御大之御前(ミホノミサキ・美保の岬)とは、いずれここから遠くはないのだろう。 植物でできた船に乗り、剥いだ鳥の皮をかぶった小さな神様…。名を問われても答えることさえできない少彦名命は、記紀ではそんな奇抜でどこか妖怪じみた風貌の神様として描かれている。 右手に海を見やりながら、わたしは東にクルマをはしらせていた。スピードを落とし、細い曲がりくねった道をぬけると、いっきに視界がひらけ、日の光をいっぱいに浴びた港が見えた。小さな船がたくさんとまっている。道沿いには、釣り客相手だろうか、旅館が立ち並んでいた。 そんな…