富野由悠季が描くサンライズロボットアニメの一つ。
異世界での戦いを描くのみならず、登場キャラクターの心理、それぞれの想い、恋、狂気、野望……それらを全て描いた、人間ドラマとしての完成度も高い。
当初はバイストン・ウェルを中心にした物語だけで完結させる予定だったが、スポンサー(バンダイ)からの要望により、中盤からは地上世界(つまりは現実世界)に舞台を移し、世界各国の軍隊を巻き込んだ作品となっていく。
また、この作品は最終回、一人だけバイストン・ウェルへ帰ることのできなかったミ・フェラリオ「チャム・ファウ」が、地上人に伝えた伝記である、というのが真相のようだ。
異世界に召還され、ロボットに乗って戦うという設定は、その後の数々のアニメに影響を与えたとされる。
また、中盤から後半のキーキャラクターであるシーラ・ラパーナは1980年代の「理想のお姫様」像として、当時のクリエイター*1に大きな影響を与えた。
舞台である異世界「バイストン・ウェル」の世界観は秀逸で、視聴者にも絶大な支持者が多いのだが、富野本人はこの作品を「失敗作」と評価している。
哲学的な内容が過分に盛り込まれているが、富野本人としては、『勇者ライディーン』の頃から構想を抱いていた異世界モノだっただけに、もう少し練りこんだ形で手懸けたかったのではないだろうか*2。
放映後に発売されたムック「バイストン・ウェル物語」の中では、「バイストン・ウェルへの召還後、ショウに一晩睡眠を取らせてしまった点が失敗」という意味の発言もあり、主としてストーリーテリングの面で活劇たりえなかった部分に反省点が残る作品であったと思われる。
富野氏自身は、その後『リーンの翼』『オーラバトラー戦記』『ガーゼィの翼』など繰り返し「バイストン・ウェルもの」を発表しており、世界そのものには相当の愛着があると思われる。
キャラクターデザインは湖川友謙。骨格が見えるのではないか、とまでリアルに描かれたキャラクターたちは、非常に迫力があり、重厚な物語にマッチしている。
原画、作画監督には、スタジオビーボォー全盛期のメンバーが作画に参加している。
また、昆虫をモチーフにした独特のメカデザインに対しては賛否はあるものの、当時としてはかなり画期的であった。
バイストン・ウェルの物語を憶えている者は、幸せである。心、豊かであろうから……。
私たちは、バイストン・ウェルの記憶を記されてこの世に生まれてきたにもかかわらず、
思い出すことのできない、性を持たされたから……。
それ故に、ミ・フェラリオの語る、次の物語を伝えよう………。
(声:若本紀昭)
東京都に住む少年、座間ショウ(中原茂)は、経済評論家の父、座間シュンカ(土師孝也)と、教育評論家の母、座間チヨ(高島雅羅)の間で裕福に暮らしてはいたが、本人はその生活環境に満足できず、モトクロスレーサーを目指して夜毎道路で仲間達とバイクレースを楽しんでいた。
ある時、同じようにバイクレースに興じていたが、ふとしたことでバランスを崩し、崖から転落。死を覚悟したショウだったが、その時、不思議な感覚に襲われ、気付いたときには、見たことのない世界へと降り立っていた。異世界バイストン・ウェルへの召還である。
アの国の領主、ドレイク・ルフト(大木正司)は、バイストン・ウェルを制圧する野望を抱き、元アメリカ軍の地上人、ショット・ウェポン(田中正彦)と共に、バイストン・ウェルの強獣の皮を使った人型兵器「オーラバトラー」を開発し、それに搭乗させる優秀な人間「聖戦士」を、地上から召還したのだ。
助けてもらった恩義から、ショウはドレイク軍のバーン・バニングス(速水奨)らとともにオーラバトラーに乗って戦うが、対抗勢力であるギブン家と行動を共にする同じ地上人、マーベル・フローズン(土井美加)と出会う。
ドレイク軍の聖戦士として戦うショウに対してマーベルは
「善悪の見境もなしにドレイクに手を貸すバカな男!」
と罵る。言葉の意味を分からなかったショウであったが、やがて、ドレイクに対して憎悪を感じ取り、ギブン家と合流。オーラバトラーを駆りドレイク・ルフトの野望に立ち向かっていく……。
1983(昭和58)年2月5日〜1984(昭和59)年1月21日 全49話