横尾忠則「キリスト」(版画) 四月八日は花祭だ。お釈迦さまの誕生日である。華やかに祝う地方も場所も、今だってあることだろう。 わが幼き日には、母からガラスの三合瓶だか五合瓶だかを持たされて、使いに出された。金剛院さまのご門前では、甘茶が振舞われた。住民の行列ができた。差出された瓶の口に漏斗(じょうご)を差して、巨きな樽から柄杓で汲んだ甘茶を注ぎ入れてくださるのだ。 花祭の行事とは、釈迦像の頭から甘茶をおかけすることだった。貧乏家庭に釈迦像などあるはずもないから、代りになにをしたのだったか記憶にない。が、そのお下がりというかお余りというか、甘茶を湯飲みで飲んだ記憶はある。たしかにほんのり甘味は感…