今宵は、秋の夜が澄み渡る、静かな一夜でございます。 深川海辺大工町の小料理屋『紀乃路』の座敷は、祝いの灯りがじんわりと温かく、胡蝶の仕舞屋の家族と、置屋の身内が和やかに集まっていました。 女将の紀乃路ねえさんが、熱い酒を徳利に注いでくれる。昔、置屋『舞扇』で胡蝶の姉芸者だったこの女将は、置屋とはまた違った、世間の情をこの店で張っている。 あっしとおさと、政三の親子三人が、おちかちゃんの七五三参りを終えて富岡八幡宮から戻ったのは、夕暮れの空が紺色に染まり始めた頃。 おちかちゃんが身にまとっている祝い着は、あっしが日本橋の呉服商『越後屋市兵衛』で見繕ってもらった逸品でございます。越後屋は金より信用…