遡ること九十四年、昭和五年のちょうど今日。 西紀に換算(なお)せば一九三〇年の、二月二十四日のことだ。 中央気象台は異例の記録に揺れていた。当日の最高気温として、寒暖計は24.9℃なる夏日寸前を示したからだ。 (中央気象台) 季節外れの高温は関東平野のみならず九州から奥羽まで、日本列島全域にて観測されたことであり、 「今まで生きてきて、こんな二月は経験したことがない」「とても炬燵に足なんぞ突っ込んじゃあいられんなあ」 と、腰の曲がった老人たちまで涼風(かぜ)を求めて戸外に出てはさざめき合ったそうである。 地球はときどき、まるで思い出すように、こんな乱調をしでかすらしい。江戸期以来の小氷河期が未…