春になって女院の御一周年が過ぎ、 官人が喪服を脱いだのに続いて四月の更衣期になったから、 はなやかな空気の満ち渡った初夏であったが、 前斎院はなお寂しくつれづれな日を送っておいでになった。 庭の桂《かつら》の木の若葉がたてるにおいにも若い女房たちは、 宮の御在職中の加茂の院の祭りのころのことを恋しがった。 源氏から、神の御禊《みそぎ》の日も ただ今はお静かでしょうという挨拶を持った使いが来た。 今日こんなことを思いました。 かけきやは 川瀬の波も たちかへり 君が御禊《みそぎ》の 藤《ふぢ》のやつれを 紫の紙に書いた正しい立文《たてぶみ》の形の手紙が 藤の花の枝につけられてあった。 斎院はもの…