こんなふうに紫の女王《にょおう》の 機嫌を取ることにばかり追われて、 花散里《はなちるさと》を訪ねる夜も 源氏の作られないのは女のためにかわいそうなことである。 このごろは公務も忙しい源氏であった。 外出に従者も多く従えて出ねばならぬ 身分の窮屈《きゅうくつ》さもある上に、 花散里その人がきわだつ刺戟《しげき》も 与えぬ人であることを知っている源氏は、 今日逢わねばと心の湧《わ》き立つこともないのであった。 五月雨《さみだれ》のころは源氏もつれづれを覚えたし、 ちょうど公務も閑暇《ひま》であったので、 思い立ってその人の所へ行った。 訪ねては行かないでも源氏の君はこの一家の生活を 保護すること…