考え事がある場合は考え続けるより、走るか泳ぐかした方がよい考えに結びつく。 だからこの日、業務を終えて雨のなか、わたしは泳ぐためにプールへと向かった。 無人のレーンをひとりで泳ぐ。 こういったとき頭は自ずと無思考になって、そこに生じた余白にいろいろな想念が巡り始める。 そして突如、思わぬ考えが立ち現れるのだった。 忘れかけていたあれやこれやも意識のなかに舞い戻り、それらを一望しての「考え」であるから机に向かってうんうん思考するよりはるかに仕上がりよく、おまけに身体を動かして気分もいいから、これぞ一挙両得といった話と言えるだろう。 この日は泳ぎつつ、前夜、天六のいんちょが言った言葉を思い返してい…