2021年5月号掲載 毎日新聞契約記者(当時)/藤原章生 あれは私が中一の冬だから、1975年の1月か2月の事だ。私の二歳上の兄と父親が取っ組み合いのけんかをした。父は時折、どうにも耐えられないという風にうなり声のような怒声を上げることがあったが、妻にも子供にも暴力を振るうことはなかった。だから、その日は例外中の例外だった。 兄はグレたという程ではないが、中三になった途端、勉強をしなくなり、アイパーをかけ、ボンタンを履くようになった。事件が起きたのは、都立高校の受験の直前だった。すでに日大一高に落ち、本人が行く気のしない落ち留めの別の私立には受かっていた。 おそらく最初は母に告げたのだろう。「…