私たち家族のため、毎日台所に立ってくれていた母。 あれは私が十代後半になって以降だっただろうか。 台所に立つその横顔を傍らから覗き込んだ瞬間 大抵いつも私はハッと息をのんだ。 そしてみるみる悲しみがこみあげてきて 心臓が張り裂けそうになったものだ。 鼻の高い堂々とした少しエキゾチックな母の横顔。 私の目にはそれが恐ろしいまでに重く陰鬱に映ったから。 近寄りがたく、話しかけてはいけないオーラを放つ横顔。 その陰鬱エネルギーは薄暗い台所に充満し さらには廊下や隣部屋を抜けて家いっぱいに拡がって行く。 今この瞬間、だれかが玄関ドアから入って来たら 玄関から台所につながる廊下に足をかけるころには きっ…