第9章 養母 翌朝男が目覚めると、例のごとくそこにはターシャの作ったなだらかなシーツの窪みと彼女のほのかな残り香があった。彼はゆっくりと体を起こして、着替えを済ませるとそのまま昨日と同じように図書室に向かった。 昨日から、彼の中に何とも釈然としないモヤモヤとした思いが広がっていたが、それがどういった種類の感情なのか、彼自身うまくつかめずにいた。純粋で可憐な、彼の実母マーガレット・ハミルトンの理不尽とも言えるあまりにあっけない生涯。貧しい画家に恋をして自ら破滅の道を選んでいった彼女の人生に、いったいどんな意味があったというのだろうか?ターシャはそこには「愛」というものがあったのだろうと言っていた…