読書＜体験

ボートと鏡作者:内村 薫風新潮社Amazon ボートと鏡：生と死、そして現実の歪みへの深遠な問い 本書『ボートと鏡』は、一見すると全く異なる二つの物語、「ボート」と「鏡」から構成されています。しかし、読み進めるにつれて、一見無関係に見えるこれらの物語が、時間と空間を超えた微妙な繋がりで結びつき、読者に深く考えさせる、独特の読書体験を提供してくれることに気づかされます。それぞれの物語について、そしてそれらが一体となって生み出す全体の印象について、詳しく考察してみたいと思います。 「ボート」：安楽死という選択と、残された時間の価値 「ボート」は、末期癌を宣告された父親の物語です。彼は安楽死を強く望…

『極東救世主伝説 少年、異形の機体で無双する。 ―九州大規模攻勢編―』 著：仏ょも／イラスト：黒銀 少年がその異形を駆るとき――人類が世界を取り戻す戦いが始まる。 第二次世界大戦末期に行われた悪魔召喚の儀によって、世界の在り様は一変した。それから一〇〇年。世界の支配者となった悪魔に対し、人類は魔装機体を生み出し抗っていた。そんな中、「異なる現代」の記憶を持つ少年・川上啓太は入学した軍学校で、誰も起動すらさせられなかった試作機との適合に成功する。いきなり戦場に派遣された彼は、前世の知識を活かして、今までの常識を覆す戦果を示してしまう。――それは、人類が世界を取り戻す戦いの始まりだった。 試し読み…

マンガでわかる異世界冒険の書15の購入はこちら マンガでわかる異世界冒険の書15：鮮やかな筆致で綴られる、新たな冒険の幕開け 「マンガでわかる異世界冒険の書15」、通称「異世界冒険の書15」を拝読しました。シリーズを通して魅力的なキャラクターと軽快な展開に惹きつけられてきましたが、今作もその期待を裏切らない、いや、むしろ上回る面白さでした。特に今作は、シリーズを通して積み重ねられてきた伏線の回収と、新たな謎の提示が見事に調和し、読後感の満足度が非常に高い一冊だと感じています。 デコボコヒドラ、新たな試練に挑む 前作までの冒険で、着実に力を付けてきたデコボコヒドラ一行。大魔王との最終決戦に向けて…

転の声作者:尾崎 世界観文藝春秋Amazon 焦燥と救済、そして虚無――芥川賞候補作『転の声』を読んだ感想 芥川賞候補作である『転の声』は、現代社会の闇と光を鮮やかに描き出した、衝撃的な小説です。一見奇抜な設定、すなわち「ミュージシャンが転売ヤーに自分を転売する」という構図は、読者の予想をはるかに超える深みと複雑さを孕んでおり、読み終えた後も長く心に残り続ける作品となっています。 崖っぷちのミュージシャンとカリスマ転売ヤーの奇妙な共生 主人公であるミュージシャン、亮介は、音楽活動で成功を収められず、焦燥感に苛まれています。才能はあるものの、世間の評価を得られず、生活にも困窮しつつあります。そん…

こんにちは。書評ブログ「淡青色のゴールド」へようこそ。師走ですね。今年も残り僅か、ということで毎年年末に書いている恒例の記事を今年も力いっぱいお送りしたいと思います。ということで、本記事は私が2024年に読んだ本の中から面白かった本をご紹介する記事です。 必ずしも今年出た本ばかりではないですので、古い本も含まれています。小説・エッセイから5冊、それ以外のジャンルからは10冊の合計15冊をご紹介します。

この人の「元彼の遺言状」を読んだ気でいたけど、多分、綾瀬はるか主演のTVドラマを見ただけだった。あれ面白かったんだ、彼女とバイト青年との関係性とか。 この作品でも、女性弁護士 剣持麗子が拾ってきた黒丑という青年の存在感が、イケメンでしっかり者なのにちょっと素性が知れなくて気になる。とにかく、ギリギリ、無理！とならないていどに意表をつく展開で、どんどん読ませるんですよね。 行間から立ち上がるような生々しい人物像は、あまり感じない…登場人物の姿は顔のない姿かたちのままだけど、みんな縦横無尽に動き続けていて、それを追っかけるのが楽しくてたまらない。という読書体験でした、私は。 「元彼」とこれの間にも…

UMAライク・プラシッド 新素材の襖の購入はこちら UMAライク・プラシッド 新素材の襖：滑稽と不可思議が織りなす、唯一無二の世界 本書『UMAライク・プラシッド 新素材の襖』は、全54ページというコンパクトながらも、密度高くユーモアと不思議な世界観が詰め込まれた、実に魅力的な同人誌である。Twitterで発表された作品に加え、32ページもの描き下ろしが収録されているという点も、読者にとって大きな喜びとなるだろう。軽妙な語り口と独特の作風は、読み終えた後も心に残る余韻を残してくれるのだ。 不可解な出来事と、それを受け入れる日常の調和 物語の中心となるのは、何やら不可思議な出来事が頻発する日常だ…

2024年11月の読了本 最近、仕事がクソすぎて、どんどん社会不適合者となりつつあるくまねこです。そのせいか、もう何も考えないようにして読書にはまりこんでいました。昔、文豪と呼ばれた人間たちが社会不適合者っぽい人たちばっかりだったのも頷けますね。社会がクソすぎるせいです。 とは言ったものの、11月は相当の冊数を読んだのかと思いきや、まあ、フタを開けてみたら6冊といつもあまり変わらない読みっぷりでした。でも、傾向としてはほぼアメリカ文学で、とくにヘミングウェイにハマり込んだ月でした。 というわけで遅ればせながら、11月の読了本の紹介です。 １．『このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる／ハプワース1…