「少年の頃、私は江戸時代に生まれなくてよかったと本気で思っていた。だが今では、江戸時代に生まれて一生を過ごした方が、自分は人間として今よりまともであれただろうと心底信じている。」 昨年亡くなった、名著「逝きし世の面影」の著者渡辺京二の言葉である。この本を再読した。きっかけは故郷「豊後の国佐伯」を巡り歩き、この地を愛した国木田独歩の想いが重なってきたことにある。何故にそれほどまでに佐伯地方の自然と人々が独歩を魅了したのか、何故に独歩にとってこの地無くして信奉するワーズワース理解はありえなかったのか、考えた。ワーズワースは工業化を突き進む英国の自然の相貌の変化を憂い、自然に絶対的価値を見出した人で…