吹き下ろしと言うほどもないが、山の風がやってきた。高いところでゴオッと鳴っている。 窓から見る庭のブナの木は大きく揺れ、すっかり黄色くなった葉が忙しく踊る。しかし急におとなしくもなる。山の風は気まぐれのようだ。 これまで味わった風で一番強かったのは何だろう。山では強い風に遭う事がある。歩けないほどだ。あれは大聖寺平だった。赤石岳は標高こそ日本第二の高峰北岳に譲るが、山脈の名前が冠されるだけある。風格に満ち溢れ惚れ惚れとする。南アルプスは俗称であり正しくは赤石山脈、そう地理で学ぶが、その盟主赤石岳の北側にある荒川岳との鞍部が大聖寺平と呼ばれている。なぜ大聖寺の名前かは分からない。まさか遠い加賀の…