序文・置き薬 堀口尚次 富山の売薬(ばいやく)とは、古くから富山県〈旧越中国〉を拠点としてきた医薬品配置販売業の通称である。「越中富山の薬売り」とも呼ばれる。 薬種商の始まりは室町時代とされる。富山で薬種商が始まったのは室町時代後期、越中に薬種商の唐人の座ができたことである。江戸時代初期から中頃にかけて丸剤(がんざい)〈固形薬〉や散剤(さんざい)〈粉薬〉を製薬する専業店が現れる。開業当時は薬種販売のみを行い、それから製薬業に移ったと思われる。 寛永16年に加賀藩から分藩した富山藩は多くの家臣や参勤交代、江戸幕府から命じられた委託事業〈手伝普請など〉、生産性の低い領地といった要因で財政難に苦しめ…