橘南渓が訪れたとき、黒川村ではちょうど池の一つが売りに出されたところであった。 「いくらだね」「五百両でさァ」「……」 ――馬鹿げている。 と、ここが黒川村でさえなかったならば、南渓もあきれたに相違ない。 (Wikipediaより、橘南渓) それだけの金を積んだなら、良田がいったい何枚買えるか。考えるだに愚かしいほどの額だった。しかも当の池ときたらどうだろう、田んぼ一枚ぶんにも満たない、小池と呼んで差し支えない規模ではないか。 本来ならば洟(はな)もひっかけてもらえぬどころか、 ――おのれ我を無礼(なめ)るか貴様。 と、喧嘩になってもおかしくはない取り引きだった。 ところがしかし、くどいようだ…